由井正雪の乱(慶安の変)が発生したワケ

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正雪の計画

既に触れている通り、正雪はかねてより、いつかは大規模な陰謀を実行し、自らの手で天下の権力を掌握したいと考えていたようです。

そのように見なせるのは、正雪の計画は疎漏ではあったものの、規模が大きく、短期間ですぐに考えつくようなものではなかったからです。

正雪は軍学の知識を活用し、一挙に高位に上り詰めるための策謀を練っていたのでしょう。

正雪が立てた計画は、次のようなものでした。

まず、江戸において鉛硝蔵(火薬庫)に火を放ち、大量の火薬を爆発させ、同時に各所に放火し、市街地を混乱の渦中に陥れる。

その隙に同志の丸橋まるばし忠弥ちゅうやが江戸城内に侵入し、御徒頭おかちがしらという、将軍の身辺を守る役目の者の名をかたって、「危険が迫っているのでご避難ください」と口上を述べ、将軍を江戸城から連れ出す。

そして将軍の側に仕える者たちを殺害して身柄を奪い、駿河の久能くのうへ急行する。

また、老人たちを集めて決死隊を編制し、登城しようとする幕閣を襲撃してこれを殺害させる。

老人たちには討ち死にを覚悟させ、死後は子孫を大身に取り立てると約束していました。

さらに別働隊が大名の紋をつけた提灯を持って彼らの屋敷に押し入り、爆薬を投じつつ乱入する。

そして三百丁からなる鉄砲隊を組織し、将軍の身柄を取り戻そうと追撃してくる部隊を迎撃させる。

というのが、江戸における計画の全貌でした。

また、京都や大坂にも仲間を派遣し、江戸の計画が成功したら、京都では二条城を、大坂では大坂城を占拠し、主要な都市を掌握する、ということも企てていました。

正雪自身は駿河の久能山に赴いてそこを本拠地とし、東西と連絡をとって全体の指揮をとることにします。

久能山は家康が埋葬されている霊地であり、要害の地でもあったことから、新たな政権を築くための根拠地としてふさわしい、と正雪は考えたのでしょう。

また、正雪はかつて、久能の農民たちが苛政に苦しめられているのを、口利きによって救済した、という過去があったため、住民が味方になる可能性が高いと考えたようです。

ゆえに正雪は久能に滞在し、金銀を集めて軍を興し、府中の城を奪って将軍家綱を擁し、天下に号令を下そう、と計画したのでした。

実現性はともかくとして、正雪の構想が壮大なものだったのは確かです。

正雪は本気で天下の宰相になろうと企んでいたのでした。

そうして正雪が成功すれば、同志たちもまた立身出世は思いのままであり、鬱屈した生活を強いられていた浪人たちにとっては、魅力的な計画に見えたでしょう。

正雪の望み

正雪は幕府の転覆を企んだ、と言われているのですが、実際のところ、正雪は徳川氏の世を覆そう、とまでは考えていませんでした。

すでに徳川将軍家は4代目となり、その支配権は強固なものになっていて、これを覆すのはもはや不可能であると、世間から認識されていました。

大胆な計画を立てる割に、妙に常識人でもあった正雪は、あくまで徳川家の将軍を頭領とし、その下で第一の家臣となることで、自らの立身出世を果たそうとしたのです。

自分自身が天下人になろうとか、徳川氏を倒し、天皇をかついで新しい政体を作ろう、とまでは考えていなかったのでした。

このあたりが正雪という人物の限界であり、同時に、世間的に成功を収めることができた要因でもあったのでしょう。

もちろん、正雪の私的な野心だけでは数千人を糾合することはできませんので、「天下の政道が乱れており、上下ともにこれに苦しめられているので、それを我らがただすのだ」という主旨が、挙兵の大義名分として掲げられています。

そして浪人が多くなりすぎていたという、幕府の統治の問題点は確かに存在していましたので、この名分には実がありました。

正雪の主な同志

この正雪の陰謀に賛同した者は、5千人もいたと言われています。

おおげさに語られている部分もあるでしょうが、正雪が計画を実行に移そうと考えたことから、少なからぬ賛同者があったのは事実なのでしょう。

その中核となっていたのが、丸橋忠弥という浪人でした。

彼は十文字槍を使いこなす武芸の達人で、出身地は出羽でわ(山形県)です。

大坂の陣で豊臣氏に味方して活躍した、長宗我部ちょうそかべ盛親もりちかの子であると称していましたが、事実かどうかは不明です。

あるいは、著名な武将の子孫を名のれば箔がつくと、正雪に入れ知恵をされたのかもしれません。

忠弥は幕府の中間頭・大岡源左衛門げんざえもんの邸内に道場を構え、槍術の師範をしていました。

6尺(約1メートル80センチ)という、当時としてはかなりの大男で、朱鞘の双刀を帯びた、爽やかな風貌の持ち主だったと言われています。

忠弥は弓師藤四郎とうしろうを通して正雪と知り合い、意気投合したようです。

やがて正雪の口利きによって、諸大名の屋敷でも槍の師範を務めるようになり、広く名を知られる存在となっていきます。

このために忠弥は正雪を慕うようになり、正雪もまた、その胆力や武勇を評価して、親しく交わるようになりました。

そして正雪は江戸城に侵入して将軍を拉致するという、重要な役目を忠弥に託すことにします。

丸橋忠弥

【市川左團次が演じる丸橋忠弥】

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