曹沖は字を倉舒といい、曹操の子供として196年に誕生しました。
幼い頃から聡明で、理解力が秀でており、五、六才の頃には大人と同じように頭を働かせることができるようになっていました。
早熟の、天才的な少年だったのだと言えます。
象の重さを測る方法を提案する
ある時、孫権が巨大な象を、曹操の元に送り届けてきたことがありました。
曹操はその重さを知りたいと思い、臣下たちに測定する方法をたずねましたが、誰も提案することができませんでした。
すると曹沖が言いました。
「象を大きな船に載せると船が沈みますが、その喫水の跡に印をつけてください。
その後で象を船から降ろし、同じ喫水になるだけの重りを載せて確認すれば、重さを測ることができます」
これを聞くと曹操は大変に喜び、すぐに実行に移しました。
これはアルキメデスの原理を応用した方法ですが、曹沖は幼くして既に、それを理解していたのでした。
ネズミと刑罰
当時は乱世であったため、軍事や政治における問題が多発していました。
このため、曹操は綱紀を引き締める目的で、刑罰の適用を厳重に行います。
わずかな過失でも重罪を課せられることがあったので、人々はそれにおびえながら暮らしていたのでした。
そんな中、倉庫に置かれていた曹操の馬の鞍が、ネズミにかじられてしまう事件が発生します。
ささいな出来事のように思えますが、倉庫係はこれで死刑になってしまうに違いない、と心配しました。
このことから、当時は刑罰が厳しくなりすぎていたことがうかがえます。
倉庫係は同僚たちと相談し、後ろ手を縛って自首しようと考えましたが、それでも助からないのではないかと思い、心を悩ませました。
この事件を知った曹沖は、倉庫係たちに言いました。
「三日ほど待っていなさい。そしてその後で自首をしなさい」
曹沖が知恵を働かせて倉庫係を救う
曹沖はそれから、刀を使って自分の服に、ネズミがかじったような穴を開けました。
そして曹操の前で落胆した様子を見せると、曹操は曹沖に何があったのかとたずねます。
すると曹沖は、次のように答えました。
「世間ではネズミに衣服をかじられると、持ち主に不吉なことがあると申しています。
いま、私の服がかじられてしまいましたので、心配して気持ちが暗く沈んでいるのです」
すると曹操は「そんなのは迷信にすぎないから、気にすることはない」と言って曹沖を慰めました。
それから三日がたつと、倉庫係が曹沖に言われたとおり、鞍がネズミにかじられてしまった件を報告してきました。
これを聞いた曹操は、笑いながら言いました。
「子供の服は身近なところに置いていても、なおかじられてしまっている。
鞍は倉庫の柱にかけてあるのだから、ネズミにかじられてしまったとしても仕方あるまい」
そして倉庫係たちの責任を追及することはありませんでした。
曹沖の知恵の働きはこのようなもので、そのほとんどは人を助けるために用いられています。
曹沖は優しい心を持った少年だったのでした。
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