伯夷と叔斉 義をつらぬいて窮死し、孔子に顕彰された兄弟について

伯夷(はくい)と叔斉(しゅくせい)は、歴史家の司馬遷が「史記列伝」の一番初めに取り上げた兄弟です。

古代の中国にあった孤竹国(こちくこく)の王子で、伯夷が長男、叔斉は三男でした。

孤竹国は黄河の北岸に存在した小国で、その国民は農業や牧畜を営み、素朴な生活を送っていたようです。

伯夷と叔斉は王子であったにも関わらず、国を出奔して周に向かいますが、そこに安住することをよしとせず、山に隠棲して餓死するという、数奇な生涯を送っています。

この文章では、そんな伯夷と叔斉がどうして後世に長く名を残すことになったのか、について書いてみます。

ともに王にならず、国を捨てて流浪する

伯夷はある日、父から孤竹国の王位は弟の叔斉に譲ると伝えられます。

伯夷はこれを妬まず逆らわず、父の死後にはその遺言の通り、弟に王位を継がせようとします。

しかし叔斉は兄を差し置いて王位につくことをよしとせず、長男である伯夷が継ぐべきだと主張します。

この結果、兄弟の間でいさかいが起きぬようにと配慮して、伯夷は自分から国を出てしまいました。

後継者争いは内乱を引き起こすことが多く、これを避ける意味もあったでしょう。

この場合はともに王位につこうとしないという、珍しい争いでしたが。

叔斉は伯夷が去っても王位を継ぐつもりはなく、やがて兄を追ってこちらも国を出ます。

こうして王になるべき人たちがいなくなってしまったので、結局は残った次男が民に請われ、王になりました。

このように、伯夷も叔斉も、ともに欲のない義人であったと言えます。

周の武王を諌める

この時代では殷(いん)という国が中国大陸を支配していましたが、やがてその統治が乱れ、紂王(ちゅうおう)という暴君が王になったことで、滅びの時が近づいていました。

一方で、殷に従っている周という国がありましたが、こちらは統治がうまくいっており、日に日にその評判が高まっていました。

周を治める西伯昌(せいはくしょう)は徳のある名君として知られていましたので、国を出た伯夷と叔斉は、周で暮らそうと思って旅をします。

しかし2人が到着した頃には、既に西伯昌は亡くなっていました。

そしてその息子である武王が周を統治するようになります。

この武王は暴君が居座る殷を滅ぼし、自らが新たに大陸の支配者となることを考えていました。

そして父の位牌を掲げて文王の称号を捧げ、軍勢を出発させて殷の紂王を討伐しようとします。

周にたどり着いていた伯夷と叔斉は、この行軍に行き会った時、武王が乗る馬のくつわを押さえ、諫言をしました。

「父上が亡くなって埋葬もすんでいないのに、兵を起こすのは忠孝の道に外れています。また、主君の紂王を討つのは仁とは言えません」と、武王に道理を説きます。

武王の家臣たちは兄弟の無礼に怒り、2人を殺害しようとしますが、武王の軍師・呂尚が「彼らは義人であるぞ、手を出すな」と言ってかばい、連れ去ってその身を守りました。

2人は正しいことを、勇気をもって武王に告げましたが、しかしそれで世の中の流れを変えることはできませんでした。

首陽山で死を迎える

武王はそのまま殷に攻め込み、戦乱が発生します。

戦いの末に殷は滅ぼされ、武王は新たな覇者として君臨しました。

伯夷と叔斉は、主君に反逆して天下を奪った武王の元で生きることを恥として、首陽山に篭って隠棲します。

そこでわらびなどの山菜を取って生活していましたが、やがて体が衰えて餓死してしまいました。

その死の直前に、以下のような詩を作っています。

首陽山に登り 山菜を取って暮らしている
暴力を用いて暴力に取って代わり 武王はその非を知らない
神農や堯舜(ぎょうしゅん)の世は終わってしまった 私はどこにいけばいいのだ
もう終わりだ 天命は衰えた

暴力を用いて天下を簒奪した武王を非難し、伝説的な王である神農や堯・舜の築いた平和な世が去ったことを偲び、この世は終わりだ、どこにも居場所がない、と嘆いています。

こうして伯夷と叔斉は哀れな死を迎えましたが、その思想的に一貫した人生が、後の世に影響を及ぼすことになります。

【次のページに続く▼】

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