刺史・州牧とは

刺史ししは中国の官職名で、州の監察官や行政長官を意味します。

初めて設置されたのは、前漢の武帝(在位 前141-前87年)の時代でした。

もともとは、地方の役人(郡守など)が現地の実力者と結託し、不正を働くことが多かったので、これを監視するのがその役割でした。

このため、特定の地域に常駐せず、州の中を巡回して不正が行われていないかを監察しています。

しかし身分が低く、そのために権限が小さく、監察の役目を十分に果たせなかったので、やがて「ぼく」と改称され、各地の長官たちと同格の立場につきました。

この結果、各地の行政にも関与できるようになり、その権限が拡大されていきます。

しかしその後、刺史に戻ったり牧になったりを繰り返しており、名称が安定しません。

前漢の時代には地方の豪族たちの勢威が強く、このために中央から赴任した役人が、必ずしも役目を果たせないことがありました。

そのような事情が刺史と牧の、立場の不安定さにつながっているのだと考えられます。

後漢の末期には刺史と牧が並立する

後漢の時代になると、やがて光武帝(在位 25-57年)が名称を刺史に戻し、制度を整備しなおしました。

それまで刺史は常駐する拠点をもっていなかったのですが、これを改めて治所を持たせ、州内の地域への行政権を確立させます。

そして年に一度、各地の巡察をすると定められました。

こうして刺史の地位が高まり、各地の統治状況が安定することになります。

霊帝の時代に刺史と牧が併設される

後漢も末期になると、黄巾こうきんの乱が発生するなど、社会情勢が不安定になっていきます。

これは中央で宦官かんがんがはびこり、賄賂次第で各地の役人を任命するようになったからです。

この影響で、能力が低く、人格に問題のある者たちが、高い地位を得るようになりました。

こうした流れによって、各地の刺史たちが重税を取り立てて私腹を肥やすなど、不正を働くようになり、彼らを押さえ込む必要が生じました。

このために霊帝は188年に牧の地位を復活させ、清廉との評判を得ていた劉虞りゅうぐや劉えんといった重臣たちを各地の牧に任命し、地方統治の立て直しをはかります。

一方で、刺史も引き続き任命されており、牧と並立する状況になりました。

刺史だった者が昇進して牧になる事例がありましたので、牧の方が格上だったことがわかります。

牧には行政権に加えて軍事権も付加されており、各地で頻発するようになった反乱を、鎮圧する働きが求められました。

群雄と刺史・牧の地位

このような権限を持っていたため、三国志に登場する群雄たちは、みな刺史か牧の地位を得ています。

代表的なところでは、曹操ははじめ兗州刺史となり、劉備は州刺史に、孫権は徐州牧になっています。

他には劉表が荊州刺史(後に牧の昇格)に、劉焉が益州牧に、陶謙が徐州刺史になるなどしています。

呂布は徐州を劉備から奪った後、徐州牧になることを強く望んだものの、かなわかなった、というエピソードがあります。

これは曹操がいずれ呂布を討つ時のために、地位を与えないように仕向けたのが原因です。

戦乱の時代になっても、地方に割拠する上でその正当性を主張するには、刺史か牧の地位につくのが有効だったのでした。

三国時代以後

魏・蜀・呉が鼎立した時代にも刺史・牧の名称が使われ、たとえば諸葛亮は益州牧になっています。

また、呉の陸そんは荊州牧になっています。

このように牧の地位は、行政と軍事において重要な役割を担う人物たちに、与えられ続けたのでした。

なお、宋(960-1279)の時代になると、新たに「知州」という地位が成立し、刺史と牧の名称は廃れ、実質のない雅号と化していきました。

この知州という名称は、現代の「知事」につながっています。

ここでの「知」は「治め、司る」という意味で、元は仏教用語でしたが、行政の分野でも用いられるようになったのでした。

日本での使用

日本においては、国司のとう名(中国風の官職名)として用いられています。

また、万葉集に収録された山上憶良おくらの詩に「刺史」の文言が見受けられます。

その詩は以下のようなものでした。

憶良聞、方岳諸侯、 都督刺史、並依典法、巡行部下、察其風俗。

「憶良が聞いたところによると、中国の諸侯や都督ととく、刺史は、典法の定めに従って部下を巡行させ、世情を視察させるそうだ」という意味になります。

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