馬騰の反乱に加担する
この頃に、征西将軍の地位にあった馬騰(馬超の父)が、朝廷に対して反乱を起こしました。
すでに董卓は呂布に暗殺されており、この時の朝廷は、その部下だった李確らが支配するようになっています。
馬騰は彼らに通じて政治に参画しようとしましたが、受け入れられなかったので、長安を攻め落とそうとしたのでした。
劉焉はこの反乱に加担し、兵を送って劉範に長安を攻撃させます。
しかしこの計画は事前に漏れており、襲撃は失敗に終わりました。
このために劉範は槐里に逃亡し、馬騰は敗北して故郷の涼州に逃げ帰っています。
やがて劉範は弟の劉誕と共に捕らえられ、二人はすぐに処刑されました。
こうして劉焉は反乱に加担したことで、二人の息子を失うことになったのでした。
あわよくば長安を押さえて朝廷を我が物にしようとしたのでしょうが、その賭けの代償は、大きなものとなりました。
火災にみまわれ、重病にかかる
それからしばらくすると、劉焉の居城は落雷によって火災が発生し、大きな被害が出ます。
城郭が焼失し、多額の費用を投じて作らせたお召し車は、全て灰になってしまいました。
そのうえ、その火は延焼し、民家にまで被害が出ます。
劉焉はこのため、州の役所を成都に移しましたが、落雷は自分の思い上がりに対する天罰だったのではないかと考え、気を病むようになります。
そして一度に二人の息子を失った悲しみもあって、背中に悪性の腫瘍ができてしまいました。
劉焉はこの病のため、194年に死去しています。
劉璋が後を継ぐ
趙韙はかつて、劉焉とともに益州にやって来て、その支配権の確立に寄与しました。
彼は劉焉が亡くなると、劉璋を後継者として、益州刺史に推薦します。
これは劉璋が温厚な性格のため、自身の権益を拡大する上で、利用しやすいと考えたためです。
このように、劉焉が後半生に無道な行いをしたせいか、劉焉の陣営は、自分の利益をむさぼろうとする者たちがあふれるようになっていました。
ともあれ、こうして劉焉・劉璋親子の益州支配は、後に劉備がやってくる時まで、続くことになります。
劉焉評
三国志の著者・陳寿は劉焉を次のように評しています。
「昔、魏豹は許負の言葉を入れて、薄姫を妻とした。また、劉歆は予言書を見て、皇帝になるために名を改めた。しかし結局、その身は危機から逃れられなかったし、彼らが求めた幸運は、文帝と光武帝が集めることになった。神明はむなしく求めてはならず、天命はみだりに願ってはならないということである。なぜなら、結果は必然のものとしてあらわれるからだ」
いささかわかりにくいので解説しますが、まず、魏豹は魏の王族に生まれた人物です。
(この魏は、曹操がたてた魏とは別の国です)
そして薄姫は許負という人相鑑定士から、「あなた様は天子をお生みなさるでしょう」という予言を受けた女性です。
このために魏豹は薄姫を側室にし、自分の子が皇帝になるのかと期待しました。
ですが、やがて魏豹は反乱を疑われて殺害され、薄姫は前漢の初代皇帝・劉邦の側室になりました。
そして薄姫は五代皇帝の文帝を生み、予言が成就されています。
また劉歆は、当時「劉秀が次の皇帝になるだろう」という予言があったことから、名を「
秀」に改め、皇帝になろうとした人物です。
しかしその願いはかなわず、劉歆は謀反の企てに失敗し、自殺しています。
結局は、初めから劉秀という名だった人物が、後漢の初代皇帝・光武帝になりました。
陳寿はこの二人を劉焉の評に書くことで、「天命(皇帝になりたいという志)をみだりに願ってはならない」と戒めたのでした。
続けて陳寿は「劉焉は董扶の言葉を聞くと、益州に心を向け、占い師に言われるままに呉氏との婚姻を求め、性急に天子のみ車を造り、天下を盗もうとはかった。その分別のなさは、はなはだしいものがある」と書いています。
ここに書かれている「呉氏」とは、先に触れた薄姫のように、「いずれ高貴な身分になるでしょう」と占い師に予言されていた女性です。
このため、劉焉は呉氏を三男・劉瑁の妻として迎え、自身の家系が登り詰められるようにと念じたのでした。
しかし、後に劉瑁は精神病にかかって死去し、未亡人となった呉氏は、蜀漢の皇帝・劉備の正室になることで、予言通りに高貴な身分になります。
魏豹のたとえと同じ構図ですので、陳寿はそのことを劉焉の評に持ち出したのでした。
このように、劉焉は思い上がって皇帝の位を望み、失敗して不幸な終わりを迎えた人物として、陳寿に糾弾されています。
陳寿は劉備を称揚するため、その前の益州の支配者であった劉焉や劉璋には、辛い採点をしていますが、それをおいても、劉焉の行動には、褒められたところがないのは事実でした。
ところで、劉焉の評は他の人物に比べ、特に念入りに書かれている印象を受けますが、陳寿は益州の住人でしたので、それだけこの地の人物には、強く思うところがあったのかもしれません。