公孫瓚は後漢の末期において、北方で勢力を築いた人物です。
文武に秀で、容貌も優れていたことから上司に気に入られ、貧しい境遇から立身出世を遂げました。
そして「白馬義従」という騎馬弓兵隊を率いて活躍し、幽州を中心として、周辺の三州にも勢力を張ります。
しかし袁紹に大敗したため、易京に堅固な城塞を築いて立て籠もりました。
それから数年に渡って籠城したものの、袁紹を退けることはできず、やがて城を攻め落とされて滅亡しました。
この文章では、そんな公孫瓚の生涯を書いてみます。
【公孫瓚の肖像画】
遼西に生まれる
公孫瓚は字を白珪といい、遼西郡の令支県で誕生しました。
生年は不明となっています。
遼西は中国北東の辺境地帯で、異民族との接触が多い地域でした。
公孫瓚は成人すると郡の役所に出仕し、門下書佐(書記)に任命されます。
公孫瓚の実家は豪族だったのですが、母親の身分が低かったため、公孫瓚は下級職から、官人としての経歴を始めることになりました。
郡の太守に気に入られ、廬植の塾に入る
公孫瓚は容貌が美しく、よく通る声を持っており、このために役所の中でもすぐに目立つ存在となります。
そのうえ、公孫瓚は弁舌がさわやかで頭の回転が早く、記憶力にも優れていました。
その容姿と能力から、やがて郡の太守である候氏に気に入られ、娘と結婚することになります。
候氏は公孫瓚の資質を磨かせるため、琢郡にある廬植の塾に入らせ、経書などを学ばせました。
公孫瓚はこの時、同じ塾に通っていた劉備と知り合い、彼から兄のように慕われます。
劉備は父親が早くに亡くなっていたため、若い頃は苦労をしていましたので、似た境遇にあった公孫瓚と、気があったのかもしれません。
こうして公孫瓚は人脈を広げつつ、より高い地位で働くために必要な見識を、身につけていったのでした。
罪を得た太守に従い、声望を高める
やがて公孫瓚は学問を修めると、遼西郡に戻り、再び役所に出仕します。
すると新しく太守に赴任していた劉基が、罪を得て連行されることになりました。
この時に公孫瓚は、衣服を着替えて囚人車の馭者となり、自ら雑役をこなしつつ、劉基につき従っています。
本来は、下役人が罪人に従うことは禁じられていましたので、これは危険な行動だったのだと言えます。
やがて劉基は裁きを受け、はるか南にある日南郡(ベトナム中部)にまで流されることになりました。
すると公孫瓚は米と肉を供え物として捧げ、北芒山の上で先祖を祭り、次のように祈念しました。
「昔は人の子でしたが、今は人の臣下になりましたので、日南に行かねばなりません。日南は毒気が充満しており、帰ってこられないかもしれません。ですので、ここでご先祖にお別れを申し上げます」
そう祈りを捧げてから、公孫瓚は再拝し、感情を高ぶらせて立ちあがります。
その様子を見ていた者たちはみなすすり泣き、公孫瓚の孝心と忠義を称えました。
結局のところ、劉基は護送される途中で赦免され、遼西に戻ることになり、日南には行かずにすみました。
このような経緯によって、劉基は公孫瓚に深く感謝するようになり、彼を孝廉に推挙しました。
孝廉は地方の優れた人材を中央に推薦する仕組みのことで、これによって公孫瓚は、出世の糸口をつかんだことになります。
公孫瓚は身を捨てるほどの覚悟で劉基に尽くした結果、大きな見返りを得ることになったのでした。
遼東の長史となり、騎兵を率いて戦う
公孫瓚はしばらく中央で役人として働いた後、遼東属国の長史(副長官)に任命されました。
遼東属国は幽州の管轄下にあり、地方部族が混在している地域でした。
そのため、異民族との抗争が激しい地域でもあります。
公孫瓚はそこで騎兵隊長を務めるようになり、軍人としての活動を開始します。
あるとき公孫瓚は、数十騎を引きつれ、辺境の砦を巡視していました。
するとやがて、数百騎の鮮卑族の部隊を発見します。
鮮卑族はこのころ、漢人たちと対立関係にありましたので、十倍ほどの鮮卑族と遭遇したこの状況は、非常に危険なものでした。
公孫瓚はいったん人目につかない物見台の影に引き下がると、部下たちに「いまあの敵を打ち破らなくては、我々は皆殺しにされてしまうだろう」と告げ、戦いへの覚悟を固めさせました。
そして自ら矛を持ち、馬を走らせて出撃すると、先手を取るべく、鮮卑族に攻めかかります。
すると公孫瓚の部隊は数十騎を撃ち倒しますが、部下の半数を失う損害も受けてしまいました。
しかし十倍の敵が相手でしたので、敵の方に多くの損害を与えた公孫瓚の働きは、目覚ましいものだったと言えるでしょう。
鮮卑族はこれにこりて国境を侵さなくなり、公孫瓚は高く評価されることになりました。
この影響で、やがて公孫瓚は琢県の令(長官)に栄転しています。
このように、公孫瓚は役人としても軍人としても、優れた能力を備えていたのでした。
(余談ですが、琢県は劉備の出身地です)
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