太田資正 軍用犬を用い、北条氏と戦い続けた知将の生涯

上杉謙信の北条征伐に伴い、離反する

そのまま10年ほどが過ぎますが、1560年になると、状況が大きく変動します。

越後の長尾輝虎(上杉謙信)が山内上杉氏の名跡を継ぎ、これによって関東征伐を行うことになったのです。

山内上杉氏は資正の主家だった扇谷上杉氏の一族で、代々関東管領の地位を得ていた家柄です。

しかし扇谷上杉氏と同じく衰退し、領地をほとんど失ったため、当主の上杉憲政は謙信に家督を譲り、上杉氏の復興を託すことにしました。

こうして関東を押領している北条氏を討伐し、上杉氏の権勢を取り戻すのが、謙信の軍事活動の目的となりました。

謙信の勢いはすさまじく、越後から関東に討ち入ると、北条方の勢力を短期間で駆逐していきます。

上野や武蔵、相模さがみ(神奈川県)東部を攻略すると、一気に北条氏の本拠・小田原城を包囲しました。

この時に資正は謙信に従い、上杉軍の先鋒を務めています。

資正の望みは上杉氏の復興にあり、北条氏に従っていたのは、擬態にすぎなかったのでしょう。

諸将の反心を抑える

小田原城を包囲する謙信と関東諸侯の軍勢は、10万にも膨れ上がっていました。

しかしその実態は寄せ集めであるに過ぎず、謙信に従う気持ちが乏しい者も、多く含まれています。

資正はそんな気配を察知し、各陣営を巡察して回りました。

すると白倉丹波という武将の陣の様子を見て、城攻めの備えを怠っており、謙信に対する反心があるようだと見抜きました。

資正は白倉の陣に乗り込むと、彼を誘って自分の陣営に連れ込み、そのまま拘束しています。

このようにして、資正が謙信に反逆しそうな者たちを見抜いて事前に動きを抑えていったことから、重大な問題は発生せずにすみました。

また、資正は関東諸侯を束ねるための活動を盛んに行っており、謙信が関東討ち入りに成功を収める上で、多大な貢献をしています。

松山城を取り戻す

謙信はそのような資正の働きを高く評価し、所有権をめぐる係争が発生していた松山城は、資正のものであると認定しました。

この結果、資正は再び岩付・松山の両城を支配しています。

しかし、資正の裏切りに怒った氏康は、これを奪還するべく、執拗に攻撃をしかけて来ることになります。

謙信は圧倒的に強いものの、本拠地が越後と遠く、北信濃(長野県北部)で武田信玄が牽制をしかけてくるため、関東に常駐することができません。

このため、謙信が越後に引き上げると、その隙をついて氏康が武蔵に侵攻をかけてくる、という状況になります。

軍用犬を用いる

資正が岩付城と松山城を支配していたころ、両城の戦力を円滑に連携させるため、連絡に軍用犬を用いていた、という逸話があります。

資正は子どもの頃から犬を好んでおり、ついには100匹も飼うようになりました。

そして岩付城で育てた50匹を松山城に配置し、松山城で育てた50匹を岩付城に配置します。

これを知った世の人々は、「太田資正はうつけ者(愚か者)だ。何の役にも立たないのに、犬をたくさん城で飼っているそうな」と言いはやしました。

そんなある時、松山城の付近で地侍たちの一揆が発生し、それを好機と捉えた北条氏康が加勢して、松山城を攻め落とそうと計画しました。

一揆勢は岩付城と松山城の戦力を連携させないようにと、道を封鎖して連絡が取れないようにします。

しかしながら、氏康の軍勢よりも早く資正の援軍が到着し、一揆勢を蹴散らしたために、氏康は目的を果たすことができず、撤退する羽目になりました。

どうして道が封鎖されているのに連絡が取れたのかというと、あらかじめ資正は松山城の家臣に命じて、敵に攻め込まれたら、犬を放って岩付城に連絡せよ、と言い置いていたからでした。

「文を書き竹の筒に入れ、犬の頭に結わいつけて10匹ばかりを放てば、岩付城に連絡がつき、迅速に援軍を送れる」というのが資正の策でした。

元々は岩付城に住んでいた犬ですので、松山城から放てば勝手に岩付城に戻ってくるわけで、犬の帰巣本能を利用した連絡手段だったのです。

人や騎馬は警戒しても、犬までは警戒していなかったので、一揆勢はこれを見過ごしていたのでした。

このため、一揆勢はどうして資正が迅速にやって来れたのか、そのからくりがわからず、「資正は希代の不思議な名人だ」と言って、資正を怖れるようになります。

この結果、松山城の近くでは一揆が起こらなくなった、ということです。

【次のページに続く▼】

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