袁術に救援を申し入れる
こうして追いつめられた呂布は、先に裏切って、その軍勢を壊滅させた、袁術に救援を申し込みます。
すると袁術は、「どうしてわしが婚姻を破棄した呂布を救援するのだ。やつが敗れるのは当然のことだろう」と呂布の使者に返答しました。
使者はこれに対し、「しかしあなたさまも、呂布が敗れれば滅亡することになります」と述べ、袁術を説得します。
使者が言うとおり、呂布が滅亡すれば、次に曹操に滅亡させられるのは、袁術の番でした。
袁術はすでに曹操に大敗を喫し、軍事力を喪失しつつありましたので、使者の言葉に理があることを認めます。
そして軍兵に出撃準備をさせ、救援のかまえをとらせました。
呂布はこれを聞いて喜びますが、娘を送らなければ、袁術は本腰を入れて救援をしてくれないのではないかと考えました。
このため、娘の体を綿でくるみ、馬の背に縛りつけ、夜にまぎれて自ら袁術の元に送り届けようとします。
しかし城を出ると、すぐに曹操軍の兵士に見つかってしまい、矢を射かけられたので、あきらめて城に戻りました。
陳宮の策によって出撃を考える
袁術はいったんは呂布を救援すると決めたものの、先に裏切られたことを、当然のことながら忘れていませんでした。
このため、軍勢を徐州に進ませるなど、曹操を積極的に牽制するほどの動きは取っていません。
こうして呂布はますます追いつめられますが、このときに陳宮が再び献策をします。
「曹操は遠方からやってきており、状況からして、こちらで長く戦い続けることはできません。
将軍(呂布)が騎兵を引きつれて出撃し、城の外で威勢を張られましたら、私は残りの軍兵を率いて城の守りを固めます。
もし敵が将軍に攻撃をしかけましたら、私は城から出撃し、敵の背後を攻撃します。
もし敵が城を攻撃したら、将軍は外から城を救援してください。
そうすれば敵は十日もたたぬうちに食糧が尽き、撤退せざるを得なくなるでしょう」
呂布はこの策がもっともだと思い、実行に移そうとしました。
実際のところ、曹操軍は戦いを重ねたことで、将兵が疲弊しており、撤退を検討する状況になっています。
ですので、もしも呂布がそのまま陳宮の策を実施していれば、この危機を切り抜けられていたかもしれません。
妻の反対にあい、出撃せず
しかしこれに、呂布の妻が反対します。
「むかし曹操は、陳宮を大事に扱っていましたが、陳宮は曹操を見捨てて出奔しました。
いま、あなたも陳宮を大事にしていますが、曹操ほどではありません。
それなのに、彼に城をそっくり預け、私や子を捨てて城外に出られるのは危険です。
もしも変事が起きたら、私はあなたの妻ではいられなくなってしまいます」
これを聞いた呂布は、急に陳宮が信用できなくなり、出撃をとりやめました。
呂布には定見がなく、人の意見に動かされやすく、そして自分が平然と人を裏切る人格の持ち主でしたので、他人を信用することができませんでした。
このため、呂布の陣営にはまとまりがなく、部下たちの心も、やがて呂布から離れていきます。
呂布がたびたび戦いに敗れたのは、部下たちとの間で発生していた不和が、その主な原因となっていました。
曹操が水攻めを行い、さらに追い込まれる
先に触れた通り、曹操の陣営も余裕がなくなってきており、一度は撤退を検討しています。
しかし曹操の参謀である荀攸と郭嘉が、泗水を決壊させ、その水を下邳に流しこみ、呂布を水攻めにすれば降伏させられる、と献策をしました。
曹操はこれを採用し、下邳の城下を水びたしにして、さらに呂布を追い込みます。
このように、参謀の意見を採用した曹操と、しかなった呂布の間には、大きな差がつくことになりました。
能力を重視して人を用いることができる曹操と、そうでない呂布との間には、越えられない壁があったのだと言えます。
候成が寝返りをうつ
追いつめられた呂布にとどめをさすことになったのは、呂布に仕える騎兵隊長の、候成という男でした。
しかし候成は、もともとは呂布を裏切ろうとは、まるで考えていませんでした。
まだ曹操が攻めこんでくる以前のこと、候成の食客が彼を裏切り、世話を任せていた十五頭の馬を奪い取るという事件を起こします。
そしてそれを手土産に、小沛の劉備の元に身をよせようとました。
このため、候成は自ら騎兵を率いて後を追い、馬をすべて取り戻すことに成功します。
諸将がこれを祝い、候成に贈り物をしたので、候成はその返礼のために、酒を醸造し、猪を捕まえて肉を用意します。
そしてまず呂布のところに酒と肉を持って行き、「最近、将軍のおかげを持ちまして、失いかけた馬を取り戻すことができました。諸将がお祝いをしてくれましたので、酒を醸造し、肉を用意しました。お口汚しに献上させていただきます」と口上を述べました。
すると呂布は「わしが酒を禁止しているのに、おまえは酒をつくったのか。それで諸将と酌み交わし、兄弟の契りを結び、共謀してわしを殺すつもりなのだろう!」と怒り出します。
候成はこの言葉に驚き、呂布を恐れてすぐに退出しました。
このことがあってから、候成はいずれ呂布に粛正されるのではないかと、恐怖心を抱くようになります。
そうした時に、曹操が下邳を包囲したので、候成は自分の身を守るため、諸将と語らい、曹操に降伏しようともちかけました。
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