厳白虎を打倒する
呉郡においては、残る孫策の敵は厳白虎だけとなりました。
孫策は自ら厳白虎の討伐に向かいましたが、厳白虎は孫策の勢いを怖れ、弟の厳輿を使者として送り、和睦を求めてきました。
孫策は和睦に同意し、厳輿と会談を開きます。
その席において、孫策は刃を抜き放ち、敷物に斬りつけたので、厳輿はたじろぎました。
孫策は厳輿に笑いかけ、「あなたは身のこなしがとてもすばやいと聞いていたので、それを見てみたくなって、ふざけたのです」と言いました。
すると厳輿は「刃物を前にすると、私の動きはとてもすばやくなりますな」と答えます。
しかし、孫策は厳輿と会ってみて、実際にはその身のこなしはたいしたものではない、と見抜きました。
そして孫策は手戟(投擲用の斧)を手に取ると、厳輿に投げつけ、その場で殺してしまいます。
厳輿は勇猛で、兄の厳白虎から頼りにされていたのですが、それをあえなく殺されてしまったため、厳白虎はひどく孫策を恐れるようになりました。
孫策はその隙を見逃さず、進軍して討ち破り、厳白虎を敗走させます。
やがて厳白虎は許昭という人物のところに逃げこんだので、重臣の程普が孫策に、許昭への攻撃を提案しました。
すると孫策は、「許昭はもとの主君への恩義を忘れず、古い友人にも誠を尽くす、立派な人物だ。だから攻撃は差し控えよう」と述べ、厳白虎を見逃しました。
許昭は厳白虎の旧友であり、危機に陥った彼を匿ったことから、このように孫策は評価したのでした。
これらの挿話から、孫策には他の人間に対する、明瞭な価値観を持っていたことがうかがえます。
厳白虎の一味などは群盗にすぎぬから、和睦すると偽って、だまし討ちにしてもかわまない。それでも自分の名誉は傷つかない、と孫策は考えていました。
一方で、許昭は人間的に優れているから、という理由でこれを攻撃せず、そこに逃げ込んだ厳白虎まで見逃しました。
このように、孫策は自分が価値があると思った相手は生かし、そうでない者は容赦なく殺してしまう傾向のある人間だったのだと言えます。
このような果断さは、戦いにおいては優れた結果をもたらすことが多いのですが、君主としては、ともすれば暴君になりかねない、危うさも持っていたのだと言えます。
このあたりの性格は、曹操と似たところがあります。
各地の太守を任命し、参謀を迎えて陣容を固める
こうして孫策は揚州各地の平定に成功すると、自らは会稽太守を兼任し、呉景を丹陽太守に、孫賁を豫章太守に任命し、統治体制を固めてゆきます。
そして江東の賢人として名高い張昭や張鉱を迎え、自身の参謀としました。
孫策は優れた容姿を備え、談笑を好み、性格が闊達で、人の意見をよく聞き入れる姿勢をもっていました。
このために孫策の陣営には優れた人材が集結し、広大な領域を支配するに足る、呉国の基盤が形勢されていったのでした。
孫策の勢力はこの時、前途洋々だったと言えるでしょう。
袁術が皇帝を僭称する
やがて197年になると、孫策の主君であった袁術が、皇帝を僭称する事件を引き起こします。
袁術はかねてより皇帝になりたいという野心を抱いており、家臣たちにその希望を伝えたことがありました。
しかし袁術には実力が不足しており、大義名分もないことから、反対にあい、一度はあきらめています。
ですが、袁術は野心を抑えきれず、とうとう勝手に皇帝を名のり、漢にかわって仲を建国する、と宣言しました。
この時には、漢王朝は衰えたりと言えども、まだその命運は尽き果ててはおらず、袁術の行動はいかにも無謀でした。
孫策は張鉱に、袁術をたしなめる手紙を書かせて送りますが、袁術がこれを無視したため、袁術の陣営から完全に離脱し、独立勢力となります。
そして呉景や孫賁、周瑜といった実力者たちもまた、袁術を見限って離脱し、孫策の陣営に正式に参加しています。
朝廷から官位を与えられる
こうして孫策が立場を明確にすると、197年に、朝廷から王甫という使者が訪れ、皇帝の詔を孫策に伝えました。
その詔には、かつて孫堅が董卓を討つために尽力したことを称賛し、孫策もまた、正しき道に従い、世の福利を図って努力をしていると認め、騎都尉(中級の部隊長)と会稽太守の地位を与える、といったことが書かれていました。
そしてかつての孫堅の爵位であった烏程候にも封じられ、孫策は公的な地位を確立することになります。
(先に袁術に与えられた将軍の地位は、袁術が私的に任命したもので、正式なものではありませんでした)
それに加え、袁術が皇帝を僭称し、民衆を惑わして悪事を働いている、という上表が徐州の呂布から寄せられていることを挙げ、孫策に対し、「呂布と、呉郡太守の陳瑀と力を合わせ、袁術を討伐するように」とも、詔には書かれていました。
このように、この時期の後漢東部においては、袁術を朝敵とし、それを周辺勢力に包囲させ、討伐しようとする動きが発生したのでした。
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