鄧艾 姜維を打ち破り、蜀を攻め滅ぼした魏の名将

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毌丘倹の反乱に対処する

やがて二五五年になると、魏では毌丘倹かんきゅうけんの反乱が発生しました。

毌丘倹は司馬氏が権力を握り、曹氏をないがしろにしていることに反発し、その打倒を目指したのです。

毌丘倹は足の早い使者たちに命じ、文書を送って各地を混乱させようとします。

鄧艾はその使者を捕らえて斬り、速やかに進軍しました。

そして楽嘉らくか城に到着し、浮橋を作ります。

司馬師が討伐のためにやってくると、鄧艾が確保していた楽嘉城に入り、ここを拠点として反乱に対処します。

毌丘倹に協力した文欽ぶんきんは、司馬師の大軍が到着した後で楽嘉にやってきたので、城下で戦い、敗北して逃亡しました。

鄧艾はこれを丘頭きゅうとうまで追撃したので、文欽は呉にまで逃亡しています。

このようにして、鄧艾は素早く対応することで、反乱が広がるのを防いだのでした。

文欽が早々に敗れたことで、やがて毌丘倹の勢いは失われ、司馬師に討伐されています。

独自の判断で動き、呉の軍勢を撃退する

ついで呉の大将軍・孫しゅんが十万と呼号する軍勢を率い、長江を渡って攻め寄せてきそうな気配を見せます。

すると魏の鎮東将軍である諸葛たんは、鄧艾を派遣し、肥陽ひようの地で迎え撃たせようとしました。

しかし鄧艾は、この地は呉軍から遠く、要害の地でもなかったので、すぐに附亭ふていに移動して、そちらに駐屯します。

そして泰山太守の諸葛しょたちを黎漿れいしょうに派遣し、敵の攻勢に備えさせると、果たして呉軍を撃退することができました。

このようにして、鄧艾は自身の判断で動き、戦果を出せるだけの戦術眼を備えていたのです。

文欽らを撃ち破った功績を認められ、鄧艾は長水校尉に任命されます。

そして方城亭候に爵位が上がり、行安西こうあんせい将軍に昇進しました。(「行」とつくのは「代行」を意味します)

これによって、鄧艾は再び西側の戦線に戻り、姜維の侵攻に対処することになります。

王経の救援に参加する

二五五年になると、姜維が攻撃をしかけてきたので、征西将軍の陳泰ちんたいが中心となって、これに対応しました。

陳泰はよう州刺史の王経おうけいに、狄道てきどう城を守るようにと伝えていたのですが、王経は配下の軍勢が姜維に撃ち破られたため、自ら軍勢を率いて出撃し、姜維と対戦します。

しかしそこで姜維に大敗し、数万の損害を出してしまいました。

このために西方は動揺し、王経は残兵を率いて狄道城に立てこもります。

姜維を追撃をかけ、城を包囲して攻撃しました。

これを知ると、陳泰は自ら、手元にいた兵を率いて狄道に急行します。

この時に鄧艾は、すでに各地が動揺しているので、大軍の集結を待ってから出撃した方がよいと意見を述べたのですが、陳泰は迅速な救援こそが勝負を分けると判断し、これを退けます。

そして陳泰は狄道城の近くに姿を表し、姜維を圧迫しました。

姜維は城攻めによって戦力を消耗していた上に、食糧が不足しがちになっていたので、これを受けて撤退します。

こうして陳泰の判断によって、魏は危ういところを脱したのでした。

救援した時に、狄道城の食糧は十日分しか残っておらず、陥落寸前でした。

このため、鄧艾の意見にそって救援を遅らせていたら、狄道城を失い、動揺していた雍州をも失っていた可能性が高くなっています。

この時は鄧艾よりも、陳泰の方が判断力において、勝っていたのでした。

姜維の動向について意見を述べる

やがて陳泰は中央に戻り、鄧艾が正式に安西将軍・仮節かせつ領護東羌校尉りょうごとうきょうこういとなって、西方の指揮を取ることになりました。

このころ、多くの者たちは、姜維の力はすでに尽きているので、再度出撃してくることはないだろうと意見を述べます。

これに対し、鄧艾は次のように反論しました。

「王経の敗戦は大きな失敗で、軍は打撃を受け、将官が殺害され、食糧の備蓄はなくなり、住民はすみかを失った。もはや滅亡の危機に瀕している状況だ。敵には勝利の勢いがあり、こちらには弱体化している。これが一つめの点だ。

敵は上の者も下の者もよく訓練されており、武器も性能がいい。しかしこちらは将が交替し、兵士は新しく派遣されてきたばかりで、武器は足りていない。これが二つ目の点だ。

敵は船に乗って行軍し、こちらは陸上を移動したので、かかった労力は同じではない。これが第三の点だ。

こちらは狄道、隴西ろうせい、南安、祁山きざんに、それぞれ守備兵を置かなければならない。敵はひとつの地点に集中できるが、こちらは四ヶ所に分散することになる。これが四つ目の点だ。

南安や隴西に向かうと、食糧の補給を羌族に頼ることになる。しかし、祁山には千けいの畑があり、麦が熟している。これは敵を釣る餌となろう。これが五つ目の点だ。

賊軍は悪賢く策を用い、必ず侵攻してくるだろう」

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